ドイツ現代戯曲選30
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「ドイツ現代戯曲選30

編集委員:池田信雄、谷川道子、寺尾格、初見基、平田栄一朗     論創社


「ドイツ戯曲選30」 ついに完成!

1.『火の顔』 マイエンブルク著 新野守広訳
2.『ブレーメンの自由』 ファスヴィンダー著 渋谷哲也訳
3.『ねずみ狩り』 トゥリーニ著 寺尾格訳
4.『エレクトロニック・シティ―おれたちの生き方』 リヒター著 内藤洋子訳
5.『私、フォイアーバッハ』 ドルスト著 高橋文子訳
6.『女たち。戦争。悦楽の劇』 ブラッシュ著 四ツ谷亮子訳

7.『ノルウェイ・トゥデイ』 I..バウアージーマ著 萩原健訳 
8.『私たちは眠らない』 K.レグラ著 植松なつみ訳
9.『汝、気にすること泣かれ』 E. イェリネク著 谷川道子訳
10.『餌食としての都市』 R.ポレッシュ著 新野守広訳
11.『ニーチェ 三部作』 E.シュレーフ著 平田栄一朗訳
12.『愛するとき死ぬとき』 F.カーター著 浅井昌子訳
13.『私たちがたがいをなにも知らなかった時』 P.ハントケ著 鈴木仁子訳
14.『衝動』 F.X.クレッツ著 三輪玲子訳

15.『自由の国のイフィゲーニエ』 V.ブラウン著 中島裕昭訳
16.『文学盲者たち』 M.チョッケ著 高橋文子訳

17.『指令―ある革命への追憶』 H.ミュラー著 谷川道子訳

18.『前と後』 R.シンメルプフェニヒ著 大塚直訳
19.『公園』 B,シュトラウス著 寺尾格訳

20.『長靴と靴下』 H.アハターンブッシ著 高橋文子訳
21.『タトゥー』D.ローエル著 三輪玲子訳
22.『バルコニーの情景』J.v.デュッフェル著 平田栄一朗訳
23.『ジェフ・クーンズ』 R.ゲッツ著 初見基訳
24.『魅惑的なアルトゥール・シュニッツラー氏の劇作による魅惑的な輪舞』 W.シュヴァープ著 寺尾格訳
25.『ゴミ、都市そして死』 R.W.ファスビンダー著 渋谷哲也訳
26.『ゴルトベルク変奏曲』 G.タボーリ著 新野守広訳
27.『終合唱』 B.シュトラウス著 初見基訳
28.『レストハウス、あるいは女はみんなこうしたもの』 E.イェリネク著 谷川道子訳
29.『座長ブルスコン』 T.ベルンハルト著 池田信雄訳
30.『ヘルデンプラッツ』 T.ベルンハルト著 池田信雄訳

1
Marius von Mayenburg
Feuergesicht

2
Rainer Werner Fassbinder
Bremer Freiheit

3
Peter Turrini
Rozznjogd / Rattenjagd

マリウス・フォン・マイエンブルク(1972~)
『火の顔』 (1998)
新野守広


ドイツ演劇界で目下期待されている新進気鋭の劇作家。『火の顔』は、何不自由のない環境で育った少年が理由もなく両親を殺害し、姉と近親相姦にいたるという現代の不気味な不条理を描き、演劇界に衝撃を与えた。Th・オースターマイアーの演出とともに話題と人気を集めた。

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー (1945~82)
『ブレーメンの自由』(1971)
渋谷哲也


ニュー・ジャーマンシネマの映画監督として知られるが、映画と併行した17本の劇作や演出活動は映像と舞台のマルチな可能性を秘める。60年代のブレヒトや民衆劇の再評価と、70年代「演出家演劇」の核ともなった劇作家。『ブレーメンの自由』は、家父長制の強い19世紀のブレーメンで15年間にわたり殺人を繰り返した女性の話。

ペーター・トゥリーニ(1944~)
『ねずみ狩り』(1971)
寺尾 格

イタリア人の家具職人の息子として、オーストリアの田舎で生まれる。新民衆劇の旗手のひとりで、下層社会の抑圧と暴力をスキャンダラスに、時にセンチメンタルにも描く「ラディカル・モラリスト」。『ねずみ狩り』では、巨大なゴミ捨て場にやってきた男女の罵り合いと乱痴気騒ぎに事寄せて、虚飾だらけの社会を痛烈に皮肉る。初演において賞賛とブーイングの嵐をあびた。

9

Elfriede Jelinek
Macht nichts
- Eine kleine Trilogie des Todes

5
Tankred Dorst
Ich, Feuerbach

6
Thomas Brasch
Frauen Krieg Lustspiel

エルフリ−デ・イェリネク(1946~)

『汝、気にすることなかれ —— シューベルトの歌曲にちなむ死の三部作』(1999)
谷川道子

2004年にノーベル文学賞を受賞したオーストリアの代表的な作家、劇作家。2001年カンヌ映画祭グランプリ作品『ピアニスト』の原作者として知られる。『汝、気にすることなかれ』はシューベルトの歌曲を通奏低音とし、オーストリア史やブルク劇場やグリム童話などをモチーフとした多層的でポリフォニックな三部作。

タンクレート・ドルスト(1925~)
私、フォイアーバッハ (1986)
高橋文子

日常のなにげない風景を描きつつも、メルヘンや神話のモチーフを混ぜ込み、日常に潜む不条理と不気味な滑稽さを描き続けてきた。『私、フォイアーバッハ』では俳優と演出アシスタントが他愛のない雑談を交わしつつ、演出家を待ち続けるが⋯⋯。ベケットを髣髴させつつそれと異なる展開と結末が用意される。

トーマス・ブラッシュ (1945~2001)
『女たち、戦争、悦楽の劇』(1987)
四ツ谷亮子

旧東ドイツ出身の劇作家だが、若者特有のアナーキズムを斬新に描く戯曲は西側世界でも積極的に上演された。『女たち、戦争、悦楽の劇』では第一次世界大戦で夫を失った女たちの悲惨な人生をあえて反ヒューマニズムの視点から描いた。そのシュールな手法は、G・タボーリの演出も相俟って初演時に話題を集めた。

7
Igor Bauersima
norway. today

12
Fritz Kater
zeit zu lieben zeit zu sterben

23
Rainald Goetz
Jeff Koons

イーゴル・バウアージーマ(1964~)
『ノルウェイ.トゥデイ』(2001)
萩原 健

ロシア人を父にプラハに生まれ、スイスで育った国際色豊かな劇作家、映画制作者。『ノルウェイ.トゥデイ』は、若者のインターネット心中というテーマが世間の耳目を集め、2001年にドイツの劇場でもっとも多く上演された作品となった。若者の感性を的確にとらえた視点が秀逸。

フリッツ・カーター(1966~)
『愛するとき死ぬとき』(2002)
浅井晶子

フリッツ・カーターは筆名で、演出家のアーミン・ペトラスではないかと言われている。若者や愛の夢と挫折をテーマにすることが多いが、クイックモーションやサンプリングなどのメディア的な手法が評価されている。『愛するとき死ぬとき』も映画の影響が色濃く反映され、批評家たちから好評を博した代表作。

ライナルト・ゲッツ(1954~)
ジェフ・クーンズ(1998)
初見 基

ドイツを代表するポストモダン的なポップ作家。快楽的表層的ポップ文化からもはや逃れられない現実と自分自身のアイロニカルな描写で知られる。『ジェフ・クーンズ』は、同名のポップ芸術家や元夫人でポルノ女優のチチョリーナと思しき人物を通じて、キッチュとは何かを追求した作品。

13

Peter Handke
Die Zeit, da wir nichts voneinander wußten 

11
Einar Schleef
Nietzsche Trilogie

19
Botho Strauß
Der Park

ペーター・ハントケ(1942~)
『私たちがたがいを知らなかった頃』(1992)
鈴木仁子

オーストリアを代表する作家、劇作家、映画脚本家であり、『カスパー・ハウザー』や『ベルリン天使の詩』は日本でも上演・公開された。『私たちがたがいを知らなかった頃』は広場を舞台に、そこにやって来るさまざまな人間模様をト書きだけで描いたユニークな無言劇。L・ボンディの演出による初演は大当たりをとった。

アイナー・シュレーフ (1944~2001)
『ニーチェ三部作』(2001)
平田栄一朗

古代劇のコロスや舞踊を現代化した稀代の演出家として知られるシュレーフは、劇作家としてもその才能をいかんなく発揮した。『ニーチェ三部作』では哲学者が精神の病を得て、母と妹とともに晩年を過ごした家族の情景が描かれる。気宇壮大な思想と息詰まる私的生活とのコントラストが印象的な作品。

ボート・シュトラウス(1944~)
公園 (1984)
寺尾 格

1980年代から90年代にかけてほとんどブームとも言えるほどの高い人気を博し、劇作のみならず散文も評価が高い。男と女の欲望、すれ違い、消費と抑圧を、知的に、シュールに、時に喜劇的に描き出す。『公園』は、シェイクスピアの『真夏の夜の夢』を現代ベルリンに置き換えて、「欲望」の喪失を壮大な皮肉として描いた作品。

29
Thomas Bernhard
Theatermacher

10
René Pollesch
Stadt als Beute

16
Matthias Zschokke
Alphabeten

トーマス・ベルンハルト(1931~1989)
座長ブルスコン(1984)
池田信雄

ハントケやイェリネクと並んでオーストリアを代表する作家、劇作家であるベルンハルトの作品は、長大なモノローグをもってなる。よほどのヴィルトゥオーゾ級の役者でなければこなせない長台詞が延々と続く。『座長ブルスコン』は、そのベルンハルトの代表作であり、そもそも演劇とは、悲劇とは、はたまた喜劇とは何ぞやを問うメタドラマでもある。

ルネ・ポレッシュ(1962~
餌食としての都市(2001)
新野守広

ベルリンの小劇場プラーターでカルト的な人気を博す個性的な劇作家、演出家。『餌食としての都市』では、ポレシュの他の作品と同様に、4人の人物たちがソファーに座り、矢継ぎ早に自分や仲間や社会の不満をぶちまけるが、そこにはポレッシュ特有のディスクール分析が込められている。

マティアス・チョッケ(1954~)
文学盲者たち(1990)

高橋文子

スイスのベルン出身で、小説、戯曲、俳優業、映画制作と多彩に活躍するチョッケは、非現実的な設定から現実に喰いこむ諷刺を得意とする。『文学盲者たち』ではその矛先を文学業界に向けた。舞台は女性作家が文学賞を受ける式場。そこで作家が自己否定や意味不明なスピーチを始めたことで、物語は思わぬ方向に転がっていく。

14
Franz Xaver Kroetz
Der Drang

22
John von Düffel
Balkonszenen

17
Heiner Müller
Der Auftrag
 - Erinnerung an eine Revolution

フランツ・クサーファー・クレッツ(1946~)
『衝動』(1994)
三輪玲子

バイエルン方言と民衆劇の伝統を逆手にとった斬新な社会劇で70年代から一世を風靡してきたクレッツ。『衝動』は話題のセクシャル・コメディー。露出症で服役していた青年フリッツが姉夫婦のもとに身を寄せる。この「闖入者」はエイズ? サディスト? ⋯⋯と周囲が想像をたくましくするせいで、フリッツを取り巻く人間関係は大混乱に。

ヨーン・フォン・デュッフェル(1966~)
バルコニーの情景 (2000)
平田栄一朗

ターリア劇場のドラマトゥルクとしても活躍中の作家、劇作家。ポップ的な現象を描くも、その表層に潜む人間心理の裏側をえぐり出すことで高い評価を得てきた。『バルコニーの情景』ではパーティ会場に集った平凡なの人びとの願望や愛憎や自己顕示欲がアイロニカルかつユーモラスに描かれる。

ハイナー・ミュラー(1929~1995)
指令(1980)
谷川道子

旧東ドイツ生まれの劇作家、演出家。代表作『ハムレットマシーン』で世界的に注目を浴びる。『指令は、ミュラーの戯曲のなかでいまだ本格的に紹介されてこなかった傑作。フランス革命時、ロベスピエールが黒人奴隷の解放運動を密かに進めようとするが・・・。革命の問題だけでなく、扉やエレベーターなどのモチーフを利用したカフカ的な不条理やシュールな設定が出色の出来である。

20
Herbert Achternbusch
Der Stiefel und sein Socken

15
Volker Braun
Iphigenie in Freiheit

18
Roland Schimmelpfennig
Vorher/Nachher

ヘルベルト・アハテルンブッシュ(1938~)
長靴と靴下(1993)
高橋文子

ミュンヒェン出身の小説家、劇作家。バイエルンの出自を自伝的に扱い、不条理な笑いに満ちた奇妙な世界を描く。十数本の劇作の多くを自分で演出し、出演もする。20本以上の映画を監督・製作し、散文作品も多い。『長靴と靴下』では、田舎に住む老夫婦が様々に脈絡なく語り続ける。ベケット風でありながら、まさにバイエルンの雰囲気を漂わして評価が高い。

フォルカー・ブラウン(1939~)
自由の国のイフィゲーニエ(1992)
中島裕昭

ミュラーと並び旧東独を代表する劇作家、詩人であり、壁崩壊後も精力的に執筆を続けている。『自由の国のイフィゲーニエ』は、エウリピデスやゲーテの『イフィゲーニエ』に触発されつつも、結末にこれらの先達とは異なる結論が用意され、それによって社会の現実を巧みに反映させることに成功した。

ローラント・シンメルプフェニッヒ(1967~)
前と後(2002)
大塚 直

演出助手、ドラマトゥルクを経て劇作家になった経歴の持ち主。1996年以来ほぼ毎年、多彩な構成を駆使してジャンルを攪乱せずにおかない意欲的な演劇テクストを提供。ラジオ劇も多い。『前と後』では39名の男女を登場させ、その多様な文体とプロットに支配されない断片的な場面の展開で日常と幻想を描く。

27
Botho Strauß
Schlußchor

8
Kathrin Röggla
wir schlafen nicht

4
Falk Richter
Electronic City    

ボート・シュトラウス(1944~)
終合唱(1991)
初見 基

15名の男女による言葉の断片による合唱のアンサンブル。ベルリンの壁崩壊直後のカフェ、客のヌードを「うっかり」見た男⋯⋯現代と神話の交錯の中に現れる喪失の闇を描く。

カトリン・レグラ(1971~)
『私たちは眠らない』(2004)
植松なつみ

オーストリア出身、小説、ラジオ劇、劇、ハイパーテクストの執筆以外に、劇やパフォーマンスの演出も行う多才な若手女性作家。『私たちは眠らない』では、多忙とストレスと不眠に悩まされる現代人が、過剰な仕事に追われつつ壊れていくニューエコノミー社会を描く。

ファルク・リヒター(1969~)
『エレクトロニック・シティ』(2004)
内藤洋子

30歳前にまず演出が注目され、4作目『何も傷つけない』(1999)で劇作がフィーバー。以後、言葉と舞台が浮遊するような独特な焦燥感を漂わせる、ポップ演劇の代表者として注目される。『エレクトロニック・シティ』では、グローバル化した電脳社会に働く人間の自己喪失の閉塞を、映像とコロスを絡めてシュールにアップ・テンポで描く。

24
Werner Schwab
Der reizende Reigen nach dem Reigen des reizenden Herrn Arthur Schnitzler

26
George Tabori
Goldberg Variationen

21
Dea Loher
Tätowierung

ヴェルナー・シュヴァープ(1958~1994)
すばらしきアルトゥール・シュニッツラー氏の劇作による刺激的なる輪舞(1996)
寺尾 格

私生児として生まれたシュヴァープは、ウィーン造形大学で学びながら書きためた戯曲が1990年代の事件とも言われるほどの急激なブームとなったが、36歳で急死。グロテスクな「シュヴァープ語」の評価は死後、むしろ高まっている。『すばらしき〜』はシュニッツラーの『輪舞』の改作。特異な言語表現によって、ひきつるような笑いに満ちた性欲を描く。

ジョージ・タボーリ(1914~)
ゴルトベルク変奏曲(1991)
新野守広

ブダペストで生まれ、ベルリンで学びイギリスに亡命。戦後はアメリカでブレヒトを訳し、ヒッチコックの脚本を書き、60年代末からベルリン、ウィーン等で活躍。ユダヤ的ブラック・ユーモアに満ちた作品と舞台で知られる。『ゴルトベルク変奏曲』は、聖書を舞台化しようと苦闘する演出家の楽屋裏コメディ。神とつかず離れずの愚かな人間の歴史が皮肉に描かれる。

デーア・ローエル(1964~)
タトゥー(1992)
三輪玲子

90年代から次々と話題作を発表し一躍脚光を浴びた女性劇作家。人間の不幸を静かに見据え、その深層を詩的リズムで語りあらわす。近親相姦を扱う『タトゥー』では、姉が父の「刻印」から解き放たれようとすると、閉じて歪んで保たれてきた家族の依存関係が崩れはじめる。そのとき姉が選んだ道とは⋯⋯。

30
Thomas Bernhard
Heldenplatz

28
Elfriede Jelinek
Raststätte 

25
Rainer Werner Fassbinder
Der Müll, die Stadt und der Tod

トーマス・ベルンハルト
ヘルデンプラッツ(1988)
池田信雄

オーストリア併合から50年を迎える年に、ヒトラーがかつて演説をした英雄広場でユダヤ人教授が自殺。それがきっかけで吹き出すオーストリア罵倒のモノローグ。半世紀前の悪夢が甦る。ベルンハルトの最後の作品。

エルフリ−デ・イェリネク
レストハウス(1994)
谷川道子

高速道路のパーキングエリアのレストハウスで浮気相手を探す2組の夫婦。モーツァルトの『コシ・ファン・トゥッテ』をドラスティックに改作して夫婦交換の現代版パロディにし、出口なしの男女の性的抑圧を描く。

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
ゴミ、都市そして死(1985)
渋谷哲也

金融都市フランクフルトの汚職に想を得て、ユダヤ資本家の屈折をグロテスクに強調したメルヘン風作品。「反ユダヤ主義」とのレッテルを貼られてスキャンダルとなり、作者の死後にようやく上演された。

論創社「ドイツ現代戯曲選30」のパンフレットより 

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